教育講演

セッション:教育講演(1)
日時:9月21日 10:05-10:35
場所:国際会議室
司会:森田潔 (岡山大学医学部麻酔・蘇生学教室)

輸血医療の現状と問題点

東京慈恵会医科大学 輸血部
○長田広司
血液製剤の安全対策の現状は、日赤は献血血液に対してHBV,HCV,HIVに対する核酸増幅検査(NAT)を平成11年10月から500検体プールで開始し、翌年2月より50検体プールにして、NAT陰性の全ての輸血用血液を供給している。2001年末までにHBV224件,HCV43件,HIV4件NATのみ陽性血液が検出された。一方輸血により感染した症例はNAT実施前21カ月間、500NAT実施後4カ月間、50NAT実施後23カ月間でHBVは35例、3例、11例、HCVは11例、0例、0例、HIVは2例、0例、0例でNAT導入後はこれらウイルスの輸血感染例は減少したが、HBVは現行の50検体プールでのNATでは防ぎ得ず、1検体1NATでなければNAT の感染防止としては完全ではない。医療機関はNAT導入で感染症はもう無いと安心せず、輸血後2〜3カ月の患者の追跡検査が必要である。また限りある献血血液に依存しない人工血液/血液代替物の研究が大学で活発に行われている。特に室温で長期保存ができる血液型のない人工赤血球(人工酸素運搬体)でHb小胞体(細胞型)、リピドヘム小胞体(細胞型)、アルブミン-ヘム(分子内包接型)は前臨床試験で正常な循環動態の保持と組織細胞への酸素輸送能が実証されている。現在安全と効果についての試験が進められている。一方、医療機関ではリスクマネイジメントが活発に議論されている。日本輸血学会の調査で全国300床以上、年間使用3000単位以上の578病院において1995年からの5年間で不適合輸血が115施設(20%)、166件起きていた。166件の内訳は赤血球Major mismatch 51件で、原因は「血液バッグの取り違え」71件(43%)、「血液型判定ミス」25件(15%)「患者の取り違え」19件(12%)で全体の70%を占め、ミスの当事者は看護婦78人、医師72人、検査技師18人で96%を占め、診療時間外のミスが100件(60%)あり、緊急輸血が78件(47%)を占め、人手の手薄な時間帯や緊急時にABO不適合輸血が起こりやすいことが判明した。輸血事故防止対策として輸血業務の一元管理と24時間体制の整備、血液製剤の適正な保管管理、コンピューターシステムの積極的な導入・活用、患者確認のための全入院患者にリストバンドの装着等が挙げられる。