教育講演

セッション:教育講演(4)
日時:9月22日 14:05-14:35
場所:国際会議室
司会:佐藤重仁 (浜松医科大学麻酔・蘇生学教室)

心筋保護の進歩と最近の話題

神戸大学大学院医学系研究科循環動態医学講座呼吸循環器外科学
○築部卓郎
開心術の成績が飛躍的に向上してきた理由として、体外循環中の全身管理技術と心停止中の心筋保護法の進歩が上げられる。本稿では開心術における心筋保護法の概略をのべ、関連する研究成果の一部を紹介し、心筋保護の進歩と最近の話題について講演する。1)心筋保護法(Cardioplegia)のメカニズム開心術では、心臓を人為的に心停止し、さらに心停止中は無血視野を得るために冠灌流量を減少させながら、しかし手術終了後には心拍動を回復させることが要求される。このような非生理的で、過大な侵襲からいかに心筋細胞や内皮細胞を守り臓器機能を温存させるかが心筋保護の目標である。具体的にはRapid arrest, hypothermia, additional protectionがCardioplegiaの基本である。Rapid arrestには高カリウム液を使用し迅速に心停止させ、心筋細胞内のATPの温存を図る。その機序は細胞外カリウム濃度上昇により細胞膜電位が脱分極し、ナトリウムチャンネルを不活化させることである。その結果、細胞形質内カルシウム濃度の上昇を励起させる欠点を有している。心筋保護液の組成に関する研究では、虚血再灌流による細胞形質内カルシウム過負荷が細胞障害の鍵であり、Ca-antagonistなどの有用性が報告されている。また、細胞膜の脱分極を抑制し、より高い心筋保護効果を得る目的でKチャンネルオープナーなどの薬剤が検討されている。2)現在臨床応用されている種々の心筋保護法(1)Crystalloid / Blood、(2)Cold, Tepid, or Warm、(3)topical cooling、(4)Antegrade / retrograde、(5)Intermittent or continuous、(6)Terminal warm blood cardioplegiaなど、各施設において組成、投与方法にバリエーションがみられるが、上記条件が心筋保護法の骨格であることには変わりはない。3)最近の話題開心術の対象患者がより重症化あるいは高齢化し、現行の心筋保護法では十分な心筋保護が得られない症例に時折遭遇する。また、off-pump CABGの登場により、心拍動下での手術が普及し、心停止時間をできるだけ短縮させる術式やさらに非心停止下の心内修復や弁置換術などの報告もみられる。これらはCardioplegia離れ現象ともいえる。心筋保護法は開心術の成績向上に大いに貢献したが、その臨床的限界も次第に明らかになってきており、今後さらなる改良が必要である。