教育講演

セッション:教育講演(6)
日時:9月22日 15:05-15:35
場所:国際会議室
司会:佐藤重仁 (浜松医科大学麻酔・蘇生学教室)

肺高血圧治療の最新動向

ハーバード大学 医学部 麻酔集中治療科
○市瀬 史
肺高血圧症は右心の後負荷を増大することにより心臓外科手術の周術期管理を困難にする。周術期に遭遇する肺高血圧症は慢性のものと急性のものに大別することができる。慢性肺高血圧症は生理学的には何らかの原因で肺血管(動脈または静脈)抵抗または肺血流量が上昇した状態が長期間持続することにより肺血管が再構築された状態であると考えられるが、細胞・分子レベルでの詳しいメカニズムは解明されていない。肺高血圧症は様々な原因疾患の合併症として発症することが知られているが、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、睡眠時無呼吸症候群、先天性心疾患、僧帽弁疾患などの患者によく見られる。一方、原発性肺高血圧症(Primary Pulmonary Hypertension:PPH)は極めてまれな致死性の遺伝性疾患であるが、細胞・分子レベルでの肺高血圧発生のメカニズムの研究に重要な手がかりを与えてくれる。その意味で最近bone morphogenetic protein receptor 2 (BMPR2) の変異がPPHの患者の多くで発見されたことは注目に値する (N Engl J Med 2001;345:319-24)。BMPR2の変異が二次性の肺高血圧症の発症にも関連しているかどうかは大変興味深い問題であり今後の研究が待たれるところである。急性の肺高血圧症は基本的には急性のダイナミックな肺血管収縮によって起こると考えられる。周術期によく見られる原因としては、ヘパリンープロタミン反応、肺塞栓、低換気などがある。周術期における肺高血圧症 に対する治療は原則として肺血管の弛緩を促進し肺血管収縮を抑制することによる。しかしながら血管拡張薬の全身投与は体血管抵抗を下げるため特に心臓外科術後の血行動態の不安定な患者では使いにくい。選択的な肺血管拡張薬としてNitric Oxide (NO) の吸入が行われているが、コストが高く、また慢性の肺高血圧症では有効性が低い事もよく見受けられる。その他の選択肢としてはプロスタサイクリン製剤の吸入、phosphodiesterase 5 (PDE5)阻害剤などがあるがいずれも実験段階である。本講義では肺高血圧発症のメカニズムを概観しつつ心臓外科手術周術期における肺高血圧症治療の最新動向について考察する。