藤田昌雄賞

セッション:藤田昌雄賞
セッション名:藤田昌雄賞候補発表
日時:9月21日 14:55-16:05
場所:メインホール
演題順序:1番目

高齢者における人工心肺中の内頚静脈酸素飽和度と術後脳高次機能低下との関連

群馬大学 医学部 麻酔・蘇生学教室1
慶友整形外科病院 麻酔科2
○門井雄司1、齋藤 繁1、吉川大輔1、後藤文夫1、藤田 尚2
心臓外科手術において、高齢者は若年者と比較して術後脳高次機能の低下が著しいと報告されているが、その原因は解明されていない。今回我々は、高齢者における人工心肺中(CPB)の内頚静脈酸素飽和度(SjvO2)と術後脳高次機能の低下との関連を若年者のそれと比較検討した。
【対象及び方法】CABG予定患者185人。若年者群(n=56人、50才未満), 中間群 (n=67人、50才以上 69才以下)、 高齢者群(n=62人、70才以上)の3群に分類した。麻酔は、fentanyl 20μg/kg, midazolam0.2 mg/kgで導入し、propofol3ー5mg/kg/hrの持続投与で維持した。麻酔導入後逆行性に内頚静脈球部にカテーテル(Baxter社製)を挿入し、SjvO2を持続モニターした。常温体外循環を使用し、CPB中は35度以上を保った。神経学的所見は術前及び術後7日、6ヶ月後に行い比較検討した。神経学的所見はMurkinら(1)の勧告に従い、6項目の神経試験のうち2項目以上20%以下低下した時、脳高次機能の低下ありと判定した。
【結果】高齢者群では他の2群と比較して、CPB中SjvO250%以下となる時間及びCPB中に占めるSjvO2<50%時間が有意に多く観察された。 (若年者群: 20±6分, 16±5 %, 中間群: 19±7分 14±6 %, 高齢者群: 34±9分*, 24±7 %*, *p<0.05)。また、CPB中SjvO2が50%以下となる人数も有意に多く観察された。 (若年者群: 20人, 中間群:22人, 高齢者群:40 人*, *p<0.05)。術後7日では若年者群: 38%, 中間群:42%, 高齢者群:50%*(p<0.05)の患者に、術後6ヶ月では若年者群: 5.7%, 中間群:5%, 高齢者群:10.7%*(p<0.05)の患者に脳高次機能低下を認めた。術後7日においては年令 (オッズ比:1.3、95%CI:1.0-1.8、p=0.02)とCPB中SjvO2が50%以下となる時間(オッズ比:1.3、95%CI:1.0-1.4、p=0.03)が脳高次機能の低下と関連した。しかし、6ヶ月後においては年令及びCPB中SjvO250%以下となる時間は脳高次機能の低下との関連を認めなかった。
【考察】CPB中のSjvO2<50%と術後神経障害との関連に関しては議論の多いところである。若年者群及び中間群ではCPB中のSjvO2<50%と術後神経障害との関連は認められなかったが、高齢者においては、CPB中のSjvO2<50%が術後脳高次機能低下の短期的予後に重要な意味を持ち、CPB中のSjvO2<50%の低下の予防が肝要である。
【参考文献】(1) Murkin JM,et al. Ann Thorac Surg. 1995;59:1289-95