一般演題

セッション:ポスター 3
セッション名:大血管手術
日時:9月21日 16:10-17:10
場所:405会議室
演題順序:5番目

経心尖部上行大動脈送血を用いたStanford A型急性大動脈解離手術の麻酔管理

日本医科大学 麻酔科学教室1
石心会 川崎幸病院 心臓血管外科2
○大島正行1、島田洋一1、坂本篤裕1、小川 龍1、渡邊 隆2
Stanford A型急性大動脈解離の手術においては,通常,人工心肺の送血部位として大腿動脈が選択されるが,逆行性送血による脳梗塞や偽腔送血によるmalperfusionが問題となる.この対策として大腿動脈送血に代わる経心尖部上行大動脈送血を用いた手術での麻酔管理を検討し報告する.
【対象】年齢は56.8歳,性別は男性6例,女性3例であった.術前,大動脈弁閉鎖不全症を1例,心タンポナーデを3例,下肢虚血を2例に認めた.また,Marfan症候群に伴う大動脈弁輪拡張症を1例認めた.
【手術手技】手術は,胸骨正中切開し,上下大静脈に脱血カニューラを挿入後,左室心尖部に1cmの切開を行い,24Frの送血用カニューラ(クラレ社製)を心尖部から挿入し,大動脈弁を経由し上行大動脈近位部に留置した.カニューラ先端は偽腔送血を避けるため,Valsalva洞の高さで維持されるように経食道心臓超音波での確認を行った.人工心肺を開始し,左室ベントを挿入した.直腸温18℃にて循環停止とし,経心尖部送血カニューラを抜去.上行大動脈を切開し,解離腔の状態を確認した後,逆行性脳灌流を開始した.GRFグルーで遠位側の断端形成を行った後,側枝付き人工血管を用い,遠位側吻合を行った.吻合後,人工血管の側枝から全身への送血を再開し,復温時に近位側の処置を行った.
【麻酔管理】麻酔は,フェンタニル,ミダゾラム,ベクロニウムで導入し,フェンタニル,プロポフォール,ベクロニウムで維持した.送血カニューレ挿入中に低血圧を1例で認めたが,合併症なく経過した.
【考察】Stanford A型急性大動脈解離手術では,人工心肺の送血部位として,容易さより大腿動脈が選択される.しかし,大腿動脈送血では,malperfusionや逆向性送血による大動脈内動脈硬化性粥腫に起因する脳梗塞が危惧される.順向性送血として腋窩動脈を選択する場合には,血管径自体による困難性や手技上時間を要する場合がある.経心尖部上行大動脈送血は,TEEの併用によりカニューラの挿入留置が安全に行なえ,順向性に送血可能で,脳梗塞や偽腔送血などの合併症を回避できる.
【結語】麻酔管理上の問題点では,TEEによる解離,心タンポナーデの評価ならびにカニューラ挿入時の低血圧に対する対処が重要である.
文献:Tex Heart Inst J; 28: 42-43, 2001