ディベート

セッション:ディベート(2)
セッション名:分離肺換気チューブの選択:私はこうする:右か左か
日時:9月22日 12:30-14:00
場所:国際会議室
演題順序:3番目

肺手術における分離肺換気

大阪府立 羽曳野病院 麻酔科
○萩平 哲
肺手術時には手術操作を助け,同時に残される肺葉を保護する目的で分離肺換気が行われます.分離肺換気ではダブルルーメンチューブ(DLT)を用いるのが一般的です.DLTには右用と左用がありますが,実際には90-95%で左用が使用されています.解剖学的な問題から左用の方が安全域が広いのは事実ですが,それ以上に「右用は使いにくい」という先入観があることも影響していると考えられます.私は,実際には右用の方が有利である場合がもっと多いと考えています.例えば,我々の施設では左肺全摘術では原則として右用を使用しています.
本ディベートでは肺手術におけるDLTの選択基準(左用か右用か)について解説します.
まず,術式は大きな要素です.ブラ切除や縦隔腫瘍などのように肺血管や気管支操作が必要ない術式ではより使い易い方(通常は左用になるでしょう)を選択するとよいでしょう.しかし,前述のように左肺全摘術や左上葉スリーブ切除などでは右用の方が好ましいでしょう.そして最も大きな問題は解剖学的な構造です.右主気管支の平均長は日本人では男性で14mm,女性で11mmと左よりも短く右用を選択する場合にはこの長さを検討しなければなりません.MallinckrodtのBronchocath(TM)の場合カフのサイズを考慮すると右主気管支長が10mm未満の場合には安全に使用することが難しいからです.この基準で考えると日本人の場合5人に1人は右用DLTの適応が困難であることになります.従って術前に使用可能かどうかの検討が必要となります.一方,左主気管支長は十分長いためこの長さが問題となることはほとんどありませんが,大動脈瘤や結核後遺症などで気管が偏位し左主気管支が急角度になっている場合や気管支狭窄が存在する場合にはDLTの左への挿入が困難となる場合があります.このような場合には右用を用いることになりますが,右用も適応が困難である場合には気管支ブロッカー(場合によっては2本のブロッカー)を用いなければなりません.幸い,肺手術では術前にレントゲン撮影やCT撮影が行われていますからこれらの画像を元にそれぞれのDLTの適応性を判定することができます.
正しい解剖の理解と画像情報に基づいた的確な判断が重要なのです.状況に応じて左右両方のDLTさらには気管支ブロッカーを駆使できることがエキスパートの条件だと考えています.