藤田昌雄賞

セッション:藤田昌雄賞
セッション名:藤田昌雄賞候補発表
日時:9月21日 14:55-16:05
場所:メインホール
演題順序:2番目

冠動脈再建術におけるニコランジルの心筋保護効果

慶應義塾大学 医学部 麻酔学教室
○山本信一、山田達也、小竹良文、武田純三
心筋が短時間の虚血に暴露されるとその後の虚血状態に対し耐性を獲得する現象はischemic preconditioningとして知られている。ニコランジルはATP感受性Kチャネル開口薬と硝酸薬の性質を併せ持つが、このATP感受性Kチャネルの心筋preconditioningへの関与が示されている。ニコランジルによる心筋保護効果は動物実験で多数報告されているが、静注薬の使用が本邦に限られているため臨床研究の報告は少ない。われわれは冠動脈再建術において術中のニコランジル投与による心筋保護効果について生食を対照としたランダム化二重盲検法を用いて検討した。
【方法】冠動脈再建術を予定された患者20名を対象とし、事前にinformed consentを得た。無作為にニコランジル群(n=10)とプラセボ群(n=10)に分けた。投薬の内容は麻酔科医、術者、集中治療医いずれにも知らされなかった。麻酔導入後ニコランジル群ではニコランジル0.1mg/kgの一回投与に引き続き0.1mg/kg/hの持続投与を手術終了まで行い、プラセボ群では同量の生理食塩水投与を行った。両群ともニトログリセリン0.2-1mcg/kg/minを併用した。体外循環中は中等度低体温とし、心筋保護法は低温血液心筋保護液の間欠的順行性投与を用いた。心筋虚血の指標としてトロポニンT(TnT)およびCK-MBを、1)麻酔導入直後(ベースライン)、2)体外循環離脱時、3)手術終了時、4)1POD、5)3PODに測定した。結果は平均値±標準偏差で表し、各群における経時的変化はANOVAとBonferroniによる多重比較で、各測定時点における群間比較はStudent t-testを用い、p<0.05を有意差ありとした。
【結果】大動脈遮断時間、人工心肺時間、手術・麻酔時間に差はなかった。TnTは両群とも手術終了から3PODにかけてベースラインに比べ有意に上昇し1PODが最高値であった。CK-MBは手術終了から1PODにかけて有意に増加し両群とも1PODで最高値に達した。CK-MBの最高値は両群間で有意な差はみられなかった(18.0±6.30 vs 25.9±10.8、p=0.133)が、TnTの最高値はプラセボ群で有意に高値であった(0.185±0.055 vs 0.439±0.269、p=0.042)。
【結論】本研究では、ニコランジル投与は冠動脈再建術後のTnTの上昇を抑えることが示された。CK-MBは両群間で有意差は認められなかった。この原因としてCK-MBの心筋虚血診断の感度がTnTより劣るためである可能性が考えられた。術中のニコランジル投与は冠動脈再建手術時の心筋保護に有用であると考えられる。