パネルディスカッション

セッション:パネルディスカッション(1)
セッション名:体外循環と炎症反応
日時:9月21日 10:05-11:35
場所:メインホール
演題順序:2番目

抗炎症療法と有効性

岩手医科大学 附属循環器医療センター 麻酔科
○川村隆枝
体外循環(CPB)下心臓手術では、全身性炎症反応(SIRS)が惹起されることが明らかになっている。高サイトカイン血症の原因としては、(1)手術侵襲、(2)CPBによる侵襲、(3)心肺の虚血再灌流などがあげられる。炎症性サイトカインの過剰な産生は、好中球の活性化、接着分子の発現増強により、微小循環と組織障害を悪化させていく。従って、血管内皮障害と好中球の活性化をいかに抑制するかが、術後臓器障害軽減の重要な鍵と考えられている。演者らは(1)炎症性サイトカインであるIL-6、IL-8が開心術において大動脈遮断解除後60分より、導入前および大動脈遮断60分後に比較して、有意に増加すること (2)それらは、s-ICAM-1、顆粒球エラスターゼ、CK-MBとそれぞれ正の相関を示すこと、また(3)大動脈遮断時間やCPB時間と正の相関を示すことから、これらのサイトカインは心筋虚血や、長時間のCPBによって産生され、好中球を介した臓器障害の一因となることを推測した。IL-6、IL-8はNOを介し、心筋収縮力を低下させたり、β-receptor のdown regulationを引き起こし、心筋スタニングの一因となることが動物実験で報告されている。我々も開心術中のIL-8 maxと術後心係数との間に負の相関が見られることから、IL-8は術後の可逆性心機能障害の一因であることを報告した。一方、抗炎症性サイトカインであるIL-10や、拮抗物質のIL-1ra、sTNF-αR I、sTNF-αR IIも大動脈遮断解除後60分より、同様にその産生が増加することから、炎症性、抗炎症性サイトカインのバランスが、生体防御にとって大切であると考えられた。演者らは、メチルプレドニゾロン、プロスタグランディンE1(PGE1)、ニコランジル(NCR)、オルプリノン(OLP)など種々の薬剤および、麻酔薬のセボフルランが、炎症性サイトカインの産生増加のみを抑制し、心筋虚血再灌流障害を軽減することを臨床例で明らかにした。PGE1、NCR、OLPはin vitroで単球、マクロファージのNF-κB活性を低下させることから、炎症性サイトカインのmRNAの発現を低下させ、抗サイトカイン作用を有するものと推測される。本講演では抗サイトカイン療法の有効性について詳細を述べる予定である。