パネルディスカッション

セッション:パネルディスカッション(3)
セッション名:高齢者大動脈弁狭窄症を考える
日時:9月22日 10:00-11:30
場所:メインホール
演題順序:1番目

大動脈弁狭窄症の臨床的予後と手術のタイミング

国立循環器病センター心臓内科
○中谷 敏
大動脈弁狭窄症(AS)の病因は主にリウマチ性、先天性(二尖弁)、加齢に伴う石灰変性の三つにわけることができるが、高齢化社会を迎えた昨今このうちで最も数多くかつ臨床的に問題となるのが石灰変性によるASである。左室は圧負荷に対してよく適応するため高度のASでも臨床症状に乏しい例が見られる。しかし一般には経過とともに症状が出現、生存率も低下し、平均余命は狭心症や失神の出現後2〜3年、心不全出現後1年といわれている。一般にASは進行性であり、圧較差にして年間約10mmHg程度増加し、弁口面積にして年間約0.1cm2程度減少するとされている。しかし進行度には個人差が大きく年余にわたってほとんど変化しない例もあり、個々の例で進行程度を予測することは困難である。従ってASの重症度評価を心エコー法で経時的に行い手術のタイミングを逸しないようにしなければならない。手術治療の適応は臨床症状を有する重症AS(弁口面積0.75 cm2以下)である。以前は重症ASであれば症状がなくても手術の対象とされていたが、無症候性の重症AS患者が突然死をきたすことはきわめてまれであり、最近は心機能が低下してくるか、著明な左室肥大(15 mm以上)が出現するか、あるいは症状が出るまで手術しない方針である。術後予後と術前心機能は関係があり、左室駆出率45%以下では術後の左室機能回復は難しい。従って、左室機能が保たれている時期(左室駆出率50%以上)に手術を行うのが望ましい。なお冠動脈疾患の合併、重症不整脈は予後不良因子である。一般に高齢者では、全身諸臓器の機能低下や脳血管、末梢血管疾患の合併などのため開心術の成績は若年者のそれに比して若干不良である。われわれの検討では、予後に影響を与える因子として脳血管障害以外に、75才以上の高齢、腎機能障害、低栄養状態、高血圧、虚血性心疾患、末梢血管障害、呼吸機能障害、肝機能障害、左室拡大、肺高血圧があった。これらの危険因子の有無、その重症度についても術前より十分に評価しておかなければならない。緊急手術では待期的手術に比べ手術成績が悪いのは当然であり、したがってことに高齢者の場合には術前に諸臓器の機能評価を十分に行い、万全の準備を整えて待機的に手術を行いたい。