一般演題

セッション:ポスター 12
セッション名:オフポンプCABG
日時:9月22日 15:40-16:40
場所:406会議室
演題順序:1番目

肥大型心筋症に対するoff-pump CABGの麻酔経験

帝京大学 医学部附属病院 麻酔科
○丸山 敦、森田茂穂、新見能成、石黒芳紀
【はじめに】悪性腫瘍の手術に先行した冠動脈再建術では、off-pump CABG(OPCAB)が、体外循環による免疫抑制を避けられること、術後の回復が早いことなどの点から有利な術式と考えられている。今回、狭心症および肥大型心筋症の患者において結腸癌の手術に先行してOPCABを施行した症例を経験したので報告する。
【症例】69歳、男性。体重59.3kg、身長158cm。1年前より労作時呼吸困難と胸痛、動悸を訴えていた。1ヶ月前より失神発作が出現するようになり、心臓カテーテル検査では左室流出路圧較差100mmHgの肥大型心筋症と、LAD#6近位部に90%、#9に90%の冠動脈狭窄を認めた。また、このとき貧血の精査で肝弯曲部に結腸癌が発見された。β遮断薬の投与により左室流出路の圧較差は50mmHgと改善した。今回、結腸癌の手術に先行して#6および#9に対するOPCABが予定された。麻酔の導入はミダゾラム、フェンタニル、ベクロニウム、維持は酸素―亜酸化窒素―セボフルランとプロポフォール持続静注を併用し、適宜フェンタニルの追加投与を行った。導入直後はTEEで僧帽弁逆流をほとんど認めなかった。しかし、胸骨正中切開、胸骨開創、LITA採取、心臓脱転、スタビライザ使用など種々の操作により再三にわたって収縮期血圧50-60mmHg台の低血圧が発生し、このときTEEでは左室流出路閉塞と高度の僧帽弁逆流を認めた。操作を解除し、吸入麻酔薬濃度を上昇させることにより血行動態は改善したが、スタビライザ使用中は左室流出路閉塞による低血圧を改善させることはできなかった。人工心肺をスタンバイし、低血圧のまま約15分間で#6に対する吻合を終了したが、当初予定していた#9へのバイパスは断念した。一ヶ月後、結腸部分切除術は無事に施行された。
【まとめ】本症例より、1)OPCABは悪性腫瘍の手術に先行して冠動脈再建術を行う際の有力な手段であること、2)しかし、肥大型心筋症を合併する患者では、OPCABは左室流出路閉塞と僧帽弁逆流による高度の低血圧が発生する危険性が高く禁忌と考えられること、3)肥大型心筋症の動的な左室流出路狭窄のモニターにはTEEが必須であることなどが示唆された。