パネルディスカッション

セッション:パネルディスカッション(5)
セッション名:Off pump CABG:PDEV阻害薬のPro/Con
日時:9月22日 14:05-15:35
場所:メインホール
演題順序:3番目

術中血行動態管理:PDE III 阻害薬を使用しない(Con)

葉山ハートセンター・湘南鎌倉総合病院 麻酔科1
葉山ハートセンター2
○小田利通1、井上 敏2
Off-pump CABG(以下,OPCAB)の術中管理におけるPDE III 阻害薬(以下,PDEI)の使用について,否定的な立場で意見を述べる. OPCABの術中管理は,血管吻合時を除いては人工心肺を用いた通常のCABGと基本的には同じである.そこで今回は,血管吻合時の管理におけるPDEIの使用について考える.
1.血管吻合時に発生する循環異常の主な原因
 心臓脱転,スタビライザーによる心臓圧迫,心臓の変位等による冠血流量減少,出血.
2.血管吻合時に循環作動薬に何を期待するか.
 循環作動薬は preload augmentation(輸液,頭低位,右側心膜切開等)や心臓の変位や圧迫の修正を図った上で使用する.循環作動薬に期待する効果は,低血圧,頻脈,心筋酸素消費量の増加を来さずに,心収縮力を維持(増強)し,後負荷を減荷し,心筋血流を維持することである.
3.循環作動薬の選択
 我々はドパミン(DOA) 2-3 mcg/kg/min,ニトログリセリン(NTG) 0.3-0.5 mcg/kg/min,ジルチアゼム(DTZ) 0.3-1.0 mcg/kg/minを併用している.
DOAには頻脈や過度の心収縮増強を来たさない範囲での心機能補助,NTGには容量血管拡張による血液リザーブの増加と冠血管拡張,DTZには抵抗血管拡張による心拍出量増加,冠血管拡張,徐脈化を期待している.
 血管吻合時の循環変動は急激かつ過激に発生するので,循環作動薬の効果発現および消失が速いことが望ましい.PDEIは急速投与や増量で低血圧になることが多く,また半減期が比較的長いため,短時間で終了する血管吻合時には使いづらいような印象がある.
 循環作動薬にはグラフト血管の攣縮予防効果が期待される.PDEI,DTZ,NTGにもこの効果を期待しうるが,優劣は明らかでない.
4. 総合的な判断
 OPCABの術中管理における循環作動薬は,薬理学的な知識に基づいて経験的な判断で使用されていると思われる.通常PDEIを用いない理由は,期待する効果を得るまでに時間がかかり,効果と手術の流れを一致させにくいこと,低血圧を来すこと,半減期が長いため一旦効果(血管拡張作用)が現れると昇圧させにくいこと等である.また,一般的にOPCABでは吻合終了後に多くの循環作動薬を必要とすることが少なく,短時間で終了するOPCABの管理についてはコストの面からも一考を要する.