一般演題

セッション:ポスター 4
セッション名:非心臓手術
日時:9月21日 16:10-17:10
場所:406会議室
演題順序:4番目

閉塞性肥大型心筋症合併患者における非心臓手術の手術適応の検討:症例報告と文献的検討

公立昭和病院 麻酔科 1
東京大学 医学部 附属病院 麻酔科 痛みセンター2
○張 京浩1、花岡一雄2
今回我々は閉塞性肥大型心筋症(HOCM)を合併し、心不全に対する治療中にS状結腸癌の発見された患者に関して、その非心臓手術の可否を、当院での過去のHOCMの症例の周術期経過も参考としながら、外科、内科、麻酔科間で議論したのでその過程を提示したい。
【症例】81才 女性、診断:S状結腸癌、消化管出血、心不全(HOCM, 大動脈弁狭窄、僧帽弁逆流、肺高血圧, 心房細動)、予定術式:S状結腸切除、
【現病歴】12年来のHOCMでβ遮断薬、ACE阻害剤で管理されていた。1年前より心不全症状出現。今回再び労作時呼吸困難及び歩行困難出現し、心拡大、右多量胸水、貧血(Hb 6.8g/dl)、急性腎不全等認め、精査の結果、易出血性のS状結腸癌が見つかった。透析、血管拡張療法により心不全は改善し外科及び麻酔科に外科治療に関してコンサルトがあった。
【心エコー所見】左室内PG 50mmHg、 大動脈弁部PG 50mmHg、EF=70%、PA=60mmHg。本症例は易出血性病変の存在のため、ヘパリンを用いる心臓手術を先行させることは事実上困難であった。担当内科医は周術期死亡を患者側に15%と説明(Goldman indexから独自に計算)し、手術に前向きであったが、麻酔科側は手術可否に関して、意見が一致せず、また外科側は心病変のリスクが高く、出血及び腸閉塞の危険は差し迫ってはいないという意見で結局経過観察となった。半年後この患者は乳頭筋断裂により心不全が悪化し、内科に再入院となった。
【考察】1996年のACC及びAHAのガイドラインにおいても、非心臓手術を行う心筋症合併患者の術前評価に関する報告はほとんどないとされる。HOCMに関しては、かろうじてThompsonやHaeringらのcase seriesが存在し、それらでは周術期の重篤な合併症の率は低いとされているが、必ずしも重症例に限った報告ではない。HOCMでは左室流出路での狭窄に加えて僧帽弁収縮期前方運動(SAM)による僧帽弁逆流も心不全の病態を複雑にする。中隔筋切除と僧帽弁置換を施行した当院過去の2症例においても麻酔導入後より肺動脈圧が体動脈圧と同程度に上昇し心不全の増悪を認め、HOCMのhigh risk群では非心臓手術の施行は困難と予想された。本症例においては生命予後を規定するのは心病変か腫瘍かという議論に至った。実際半年後には、乳頭筋断裂により心不全が悪化し、図らずも心病変が生命予後を規定する段階に至ったが、生命予後のみではなく、患者のQOLも考慮した術前評価の必要性を感じた。