パネルディスカッション

セッション:パネルディスカッション(1)
セッション名:体外循環と炎症反応
日時:9月21日 10:05-11:35
場所:メインホール
演題順序:1番目

人工心肺・体外循環の炎症反応と病態生理〜人工心肺による侵襲〜

佐賀医科大学 胸部外科
○岡崎幸生、伊藤 翼
【背景】抗凝固療法としてヘパリンが使用されACTを400ないし450秒以上に保つことが標準となっている。ところが、ヘパリンはAT-IIIの抗トロンビン活性を著明に増強するが、人工心肺回路に血液が接触した際に第XII因子(ハゲマン因子)の活性化を抑制できず、一連の凝固系カスケードは進展していく。活性化ハゲマン因子は凝固系のみならず、線溶系、カリクレイン−キニン系、さらには補体系を活性化する。カリクレイン・補体系活性により白血球が活性化される。単球も人工心肺で活性化され組織因子を活性化し外因系凝固カスケードも進展する。これら一連の反応で多くのサイトカインが産生される。人工心肺後数時間にサイトカイン血中濃度がピークに達することが多い。これらは、人工心肺・開心術後、浮腫、心機能低下、血管抵抗の乱調などをきたし、合併症を惹起する。そこで、通常の開心術後の人工心肺回路を形態学的に解析し、現状での抗凝固・抗炎症療法が不十分であるか、また、人工心肺で炎症反応が活性化された血液の再灌流により心収縮力がいかに障害されるか、の検討を行った。
【人工心肺回路血液接触面の観察】通常の開心術人工心肺回路を人工心肺離脱後、速やかにリンス及び固定を行い、走査電子顕微鏡で観察した。肉眼的には概ね問題ないと思われた回路内血液接触面に多くの付着物が観察された。人工肺の中空糸血液接触面には多数の活性化された白血球や血小板が付着していた。動脈血フィルターには、活性化白血球、血球成分と蛋白成分からなる微小血栓等を認めた。回路チューブには、活性化白血球、赤血球凝集塊、壁に付着した蛋白成分が剥離したもの、フィブリンネットワーク、微小血栓等が観察された。
【開心術における活性化白血球再灌流障害実験モデル】ウサギ摘出心をサポートアニマルの血液で灌流するシステムにおいて、虚血再灌流障害を心収縮力と冠動脈内皮損傷の程度で評価した。通常の開心術に準じて30分毎に心筋保護液を注入しても4時間の心停止後(4時間を超える体外循環で血液も活性化されている)では、心収縮力の回復は40−50%程度に著しく低下し、冠動脈内皮損傷も顕著であった。同じ条件で白血球除去血を再灌流すると心収縮力は80%程度に改善し冠動脈内皮損傷も著明に改善された。
【まとめ】ヘパリンによる抗凝固療法では不十分で人工心肺で炎症反応が惹起され重篤な合併症を惹き起こす。改善策の確立が急務である。