一般演題

セッション:ポスター 14
セッション名:合併症
日時:9月22日 15:40-16:40
場所:503会議室
演題順序:3番目

経食道心エコープローブ挿入時に著明な甲状軟骨の突出を認め、術後に舌下神経麻痺をきたした一症例

北海道大学 医学部 附属病院 麻酔科
○橘 かおり、久野健二郎、小林繁明、劔物 修
 症例は51歳男性、僧帽弁逆流症に対して僧帽弁形成術が予定された。僧帽弁逆流の程度は4度で左房・左室の拡大を伴い、NYHAは2度であった。呼吸機能は良好であったが、胸部X線上両側肺に巨大ブラが認められた。フェンタニルとミダゾラムによる麻酔導入後、ベクロニウムで筋弛緩を得て気管挿管し、右内頚静脈より中心静脈および肺動脈カテーテルを留置した。手術のため頚部伸展位をとり、経食道心エコープローブを挿入した際に抵抗があり、著明な甲状軟骨突出を認めた。ただちに耳鼻咽喉科にコンサルトしたところ甲状軟骨損傷が疑われた。頚部X線およびCT上には問題は認められなかったが手術は中止とし、麻酔を覚醒し抜管したところ、患者はわずかな嚥下困難感を訴えたのみで、呼吸状態および発声に問題はなかった。
 1週間後に再手術が予定され、前回同様に麻酔を導入した。経食道心エコープローブ挿入後に甲状軟骨突出が認められたが、挿入および操作はスムーズであった。手術は予定通り終了し、挿管下にICUへ搬送した。手術時間5時間42分、麻酔時間7時間31分であった。ICUにおける呼吸・循環動態に問題なく入室4時間後に抜管され、翌日ICUを退室し、同日夜より飲水・食事摂取を開始した。
 患者は抜管後より嗄声を認め、飲水・食事の際舌の違和感および嚥下困難を認めた。術後5日目に神経内科を受診、右舌の軽度萎縮・中高度の運動麻痺および右声帯運動異常の所見から急性右舌下神経および反回神経麻痺と診断された。術後4日目の脳MRI上に問題は認められず、中枢性麻痺は否定的であった。舌下神経麻痺の原因として、気管チューブあるいは経食道心エコープローブが口腔内で舌下神経を圧迫した可能性、手術体位で頚部が強く伸展されたこと、甲状軟骨付近の解剖学的異常の可能性等が考えられた。
 術後経過はおおむね良好で、反回神経・舌下神経麻痺については保存的に治療され、徐々に回復し術後30日目に退院となった。退院時には嗄声はほぼ消失し、嚥下困難は認められなかった。