一般演題

セッション:ポスター 15
セッション名:止血・凝固
日時:9月22日 15:40-16:40
場所:504会議室
演題順序:4番目

抗リン脂質抗体症候群患者に対する僧帽弁および大動脈弁置換術中の凝固管理

山口大学 医学部 麻酔・蘇生学講座1
社会保険小倉記念病院 麻酔科,救急・集中治療部2
○金子秀一1、村中健二2、渕上竜也2、高岡華代2、宮脇 宏2、瀬尾勝弘2
抗リン脂質抗体症候群は,リン脂質に対する自己抗体により凝固系検査で異常を認め,種々の血栓症状を認める疾患である.今回,抗リン脂質抗体症候群を合併した患者に心臓手術を行う際に,血中ヘパリン濃度を指標として凝固管理を行ったので報告する.
【症例】74歳の女性で,大動脈弁閉鎖不全症(AR)および僧帽弁閉鎖不全症(MR)と診断された.既往に血栓症を示唆するものはなかった.心エコー検査でAR,MR高度であった.血液検査で梅毒血清反応が生物学的偽陽性, Hg 8.6g/dl,血小板 8.1 ×104/μl,PT 13.1秒,APTT 82.3秒であった.僧帽弁および大動脈弁置換術が予定されたが,Hemochronによる活性凝固時間(ACT)が257秒であったため,手術を延期して精査を行うことにした.凝固異常の原因を検索した結果,抗カルジオリピン抗体120U/ml以上,抗カルジオリピンβ2-GPI抗体125U/ml以上で抗リン脂質抗体症候群が疑われ,ヘパリン,ワルファリン,アスピリンを投与した後,改めて手術を予定した.
【麻酔経過】麻酔はミダゾラム5mg,フェンタニル計30μg/kg,プロポフォール2mg/ kg/hで行った.人工心肺のために使用するヘパリンの効果判定には,HemochronによるACTと血中ヘパリン濃度測定装置Hepcon/HMS(Medtronic社)を併用した.ヘパリン用量感受性試験では評価不能であったため,人工心肺導入前に通常のとおりヘパリン3 mg/kgを投与した.ヘパリン投与後のACTは700〜1000秒であったが,血中ヘパリン濃度(mg/kgとして表示)は1.5〜2mg/kgで,ヘパリンの追加投与を行いながらこの範囲の濃度を維持した.人工心肺離脱後のプロタミン投与量は,ヘパリン血中濃度から投与量を算出して計80mgを投与した.最終的にヘパリン血中濃度は0mg/kg,ACTは178秒となった.新鮮凍結血漿8単位,血小板濃厚液20単位を投与して,止血は容易であった.手術時間は4時間15分,人工心肺時間は1時間46分であった.
【結語】抗リン脂質抗体症候群患者では,凝固異常により術前からACTが延長していることがあるので,人工心肺を使用する手術では,血中ヘパリン濃度を指標として凝固状態の管理を行うことが有用であると考えられる.