一般演題

セッション:ポスター 9
セッション名:薬理
日時:9月22日 15:40-16:40
場所:403会議室
演題順序:4番目

ニコランジル持続投与中にニトログリセリン投与を中止して誘発された術中冠動脈攣縮症例

社会保険 小倉記念病院 麻酔科,救急・集中治療部
○平田 孝夫、瀬尾勝弘、渕上竜也、高岡華代、板谷美和、角本眞一
術中に心電図でST上昇を生じ、ニコランジル(NIC)とニトログリセリン(TNG)の持続投与を開始した後にTNG投与を中止したら、ST上昇が再発した症例を経験したので報告する。
【症例】76歳 男性。両下肢の閉塞性動脈硬化症の診断で、大腿動脈-大腿動脈(F-F)、両側大腿動脈-膝窩動脈(F-P)バイパス術を硬膜外麻酔併用下に全身麻酔で行った。既往歴として、高血圧症に対しニフェジピンの内服中であった。また、2年前に一度、胸部絞扼感を自覚したため冠動脈造影検査を行ったが、有意の狭窄を認めなかった。しかし、症状の予防のため硝酸イソソルビド貼付を行っていた。
【麻酔経過】手術室に入室後、硬膜外カテーテルをL2-3から留置した。麻酔導入は、チオペンタール、ベクロニウム投与、イソフルラン吸入を行い、気管挿管を行った。麻酔維持は、酸素、亜酸化窒素、イソフルランで行い、0.75%ロピバカインの硬膜外投与を適宜行った。手術開始後から洞性不整脈と上室性期外収縮を認めた。F-F バイパス吻合終了後に収縮期血圧(SBP)が75mmHgに低下したため、輸液負荷とともにエチレフリン2mg投与を行い、SBPを110mmHgに上昇させた。その直後に、II誘導で0.5mV(5mm)のST上昇を認めた。このため、NIC 1.5μg/kg/minとTNG 1μg/kg/minの持続投与を開始した。約5分後、ST上昇は改善した。その後、SBPは90mmHg前後で、TNG投与を中止し、NICの持続投与のみとした。約40分後(F-Pバイパス吻合終了後約20分)、再びII誘導で0.5mV(5mm)のST上昇を認めた。このため、NIC持続投与に加え、TNG 600μgを緩徐に静注した後、1μg/kg/minの持続投与を再開した。これにより、ST上昇は速やかに改善した。術中のBIS値は60〜70であった。
【考察】ST上昇の原因は冠動脈攣縮によるものと考えられた。術中に生じた冠動脈攣縮の再発を防ぐために、NICとTNGを投与したが、TNG投与を中止して、NIC単独投与となった時に再発を防げなかった。NIC単独投与の場合、今回用いた1.5μg/kg/minでは冠動脈攣縮を防ぐのには十分でないのかも知れない。
【まとめ】冠動脈攣縮に対してNICの単独投与を行う場合には、投与速度によっては再発を抑制できないことがある。