一般演題

セッション:ポスター 6
セッション名:脳・神経
日時:9月21日 16:10-17:10
場所:503会議室
演題順序:6番目

全静脈麻酔下の胸腹部大動脈人工血管置換術中にBIS値が0を示した1症例

琉球大学 医学部 麻酔科
○垣花 学、中村清哉、須加原一博
【症例】52歳、男性。身長167cm、体重74kg。高血圧や糖尿病などを指摘されたことはなかった。職場検診で、縦隔陰影の拡大を指摘され、CT撮影を施行したところ胸腹部大動脈瘤(最大径:55mm)と診断された。胸腹部大動脈人工血管置換術が予定された。
【麻酔経過】前投薬は塩酸モルヒネ10mg、硫酸アトロピン0.5mgとした。麻酔導入は、プロポフォール(P)60mg、ケタミン(K)50mg、フェンタニル(F)300μgで行い、サクシン80mgで筋弛緩を得た後に気管挿管(37Fr ダブルルーメンチューブ)した。脊髄機能モニタリングとして、経頭蓋運動誘発電位を用い、基準値を測定後にベクロニウムを間欠投与した。麻酔深度モニターとしてBIS値を測定(Aspect社)した。麻酔維持は、PとKの持続注入(P : 6mg/kg/h、 K : 0.5mg/kg/h)ならびにフェンタニルの間欠投与で行った。大動脈遮断部位より中枢側は自己心拍で、末梢側は人工心肺(F−Fバイパス)にて人工血管中の循環を維持した。大動脈遮断15分後からBIS値が急激に低下し、33分後には0となった。大動脈遮断中枢側の循環は安定(平均血圧:70-98mmHg)しており、術中の瞳孔径は1mm以下であった。P投与を中止すると、その約20分後からBIS値の上昇がみられた。再びPを投与すると約15分後から急激にBIS値が低下した。循環の安定性ならびに瞳孔径から脳虚血の可能性は少なく、深麻酔による影響であると判断した。大動脈遮断時間は95分間で、遮断解除後の術中経過は特に問題はなかった。術後ICUに入室したが、入室6時間後に完全覚醒し、術翌日には人工呼吸から離脱した。術後神経学的所見は認められず経過した。
【考察】本症例における血中P濃度(HPLC測定)は、大動脈遮断直前で2.74μg/ml、遮断15分後では遮断中枢側で6.93μg/ml、末梢側で1.51μg/mlであった。その後も遮断中枢側のP濃度は6-7μg/ml台で経過した。この遮断中枢側のP濃度の上昇は、上肢静脈から投与されたPが上大静脈、右心系、さらに左心系に至り遮断中枢側を循環しPの主代謝臓器である肝臓を通過せずさらに心臓へ戻ってくるために起こると考えられた。これにより脳内P濃度が上昇しBIS値が著しく低下したと予測された。
【結語】Pを用いた全静脈麻酔下の胸腹部大動脈手術時には、大動脈遮断後にBIS値が急激に低下することがあり、注意が必要である。