一般演題

セッション:ポスター 14
セッション名:合併症
日時:9月22日 15:40-16:40
場所:503会議室
演題順序:2番目

off-pump CABG中に発症した食道出血の一例

京都大学 医学部 附属病院 麻酔科
○鳥居ゆき、難波恒久、福田和彦
経食道心エコー(TEE)は安全で副作用の少ない検査手技であるが稀に食道裂創、出血、食道破裂の報告がある。今回TEEを使用したOff-pump CABG中の大量食道出血を経験したので報告する。
【症例】82歳男性、身長157cm、体重51kg、4年前から労作時胸部圧迫感があり、腹部大動脈瘤も指摘されていた。最近瘤の増大、また冠動脈造影上有意狭窄を認めたためOff-pump CABG及び腹部大動脈瘤人工血管置換術の同時手術が予定された。既往歴には高血圧の他は特記すべきものはなかった。麻酔はプロポフォール、フェンタニル及び低濃度セボフルランで導入・維持した。導入後胃管とTEEプローブを挿入した。双方とも挿入時に異常抵抗は認められなかった。プローブは心基部にて四腔断面像を観察した後、左室短軸断面像の位置に固定して観察した。この時胃管からは約50mLの透明な胃液が吸引された。ドパミン、オルプリノン持続静注により血圧、心拍出量を高めに保ちながら内胸動脈、胃大網動脈の剥離を行った後、ヘパリンを静注した。直後から収縮期血圧が75mmHgに低下したため、加熱ヒト血漿蛋白の投与、輸血、ノルアドレナリン持続静注を開始した。術野では顕著な出血は認められなかったが、血中ヘモグロビン濃度は6.2mg/dLまで低下した。CABG終了時までに加熱ヒト血漿蛋白3750mL、赤血球MAP6単位、新鮮凍結血漿4単位、濃厚血小板20単位を投与した。プロタミン投与後血圧は安定した。腹部操作に移る際、胃の膨満に気付き、胃管の吸引により血性排液約400mLが得られた。活動性出血はないと思われたが、ヘパリン投与による再出血の危険性を考慮し腹部大動脈瘤人工血管置換術は延期された。術後9日目、内視鏡により食道・胃接合部の扁平上皮側に2カ所の縦走粘膜潰瘍が認められ、そのうちプローブの幅に相当する程度の幅広の潰瘍に出血源と考えられる部位が同定された。
【考察】 TEEプローブの粘膜面への圧力は時として60mmHgを超える場合があり、このような状態での長時間留置は粘膜損傷の危険性があると指摘されている。本症例ではプローブの幅に相当する潰瘍があったこと、プローブを左室短軸断面像の位置に固定していたことからTEEにより粘膜損傷を生じた可能性が最も考えられる。
【結語】 TEEプローブの固定留置によると考えられる食道出血を経験した。