一般演題

セッション:ポスター 4
セッション名:非心臓手術
日時:9月21日 16:10-17:10
場所:406会議室
演題順序:3番目

不十分な術前評価のため術後心筋梗塞を合併してしまった2症例

東京慈恵会医科大学医学部麻酔科
○安井 豊、木田康太郎、齋藤洋一、庄司和弘、正木英二、谷藤泰正
欧米化生活に伴い虚血性心疾患を有した非心臓手術が増加している。今回我々は、術前評価が不十分であったために、術後心筋梗塞が発生してしまった症例を経験したので報告する。
症例1:78才女性。右変形性股関節症の診断のもと人工股関節置換術が予定された。合併症に高血圧があり、Ca拮抗薬、β―ブロッカーを服用していた。近医にて虚血性心疾患の疑いを受けていたが、術前検査ではECG上問題を認めず、胸部レントゲンにて左第1弓の突出があり、大動脈解離疑いの所見であった。循環器内科よりのコメントは術中に血圧の変動に注意するとのことであった。麻酔は硬膜外併用GOPで行なわれ問題なく終了し帰室した。手術翌日、突然の意識低下があり、心肺停止状態となった。CPRにも反応せず、3時間後死亡を確認した。病理解剖の結果,左室後側壁の広範な急性心筋壊死の所見を認めた。
症例2:70才男性。甲状腺癌再発のため頚部リンパ節郭清が予定された。65才時胸痛発作のためPTCAステント挿入術を施行され循環器内科にてフォローアップされていた。69才時に甲状腺癌に対する手術に対し全麻を受けていたが、特に問題は無かった。術前の負荷心筋シンチでLAD領域に虚血所見を認めたため、循環器内科に心臓カテーテル検査を含めた再度の評価を依頼したが、症状等に変化が見られないとの理由から、必要なしとの回答があった。症例1の経験をふまえ、高度虚血性心疾患のある患者であると考え、集中的モニタリングと適切迅速な薬物投与による安定した血行動態を維持するよう麻酔管理を計画した。術中はフェンタニールを中心としたバランス麻酔で管理し、手術を終了した。術後1日目患者は胸痛を訴え、薬物治療を受けたが反応せず緊急のPTCAが施行された。その後経過は良好で無事退院の運びとなった。
今回の手術後に経験した心筋梗塞の2例は、いずれも術前の対応が不十分であったために生じたものであると考えられる。特に内科医とのコンサルトは大変重要であり、術中術後に患者がどのような状態におかれるかを十分に説明し理解を受けた上で術前評価を依頼すべきであった。確信ある術前評価がえられない場合は、虚血性心疾患を持った患者として麻酔管理をすべきであると考える。