一般演題

セッション:ポスター 4
セッション名:非心臓手術
日時:9月21日 16:10-17:10
場所:406会議室
演題順序:5番目

下大静脈腫瘍塞栓摘出時、ST上昇を伴うparadoxical air embolismを生じた卵円孔開存の一例

島根医科大学附属病院集中治療部1
島根医科大学医学部麻酔科学教室2
○越崎雅行1、二階哲朗2、葛西麻由2、宮本 寛1、野村岳志2、橋本圭司1、齊藤洋司2
 卵円孔の開存は健康成人の25〜35%に認められ、そのような症例における体外循環を用いる手術では常にparadoxical air embolism(PAE)の危険性が潜在する。しかし、心臓手術中に卵円孔開存が大きな問題になることは少ない。今回、下大静脈内腫瘍塞栓を有する腎腫瘍の症例において、体外循環補助下に下大静脈内腫瘍を摘出中に、予期しえなかった卵円孔開存によりST上昇を伴う重篤なPAEを生じた症例を経験したので考察を加え報告する。
【症例】30歳、男性。身長182cm、体重106kg。右房内伸展をみる下大静脈腫瘍塞栓を伴った右腎細胞癌の診断にて、根治的右腎摘除術、下大静脈腫瘍塞栓摘出術が予定された。麻酔はプロポフォール、フェンタニルを主とし、適宜イソフルランを使用した。モニターは通常のモニターに直接動脈圧測定、中心静脈圧測定、TEEを併用した。麻酔導入後のTEE所見では、右房内に下大静脈より進展した腫瘍が浮動していた以外は特に異常を認めなかった。胸腹部正中切開にて上行大動脈に送血管を上大静脈と腎静脈下の下大静脈に脱血管を挿入し、上大静脈、左腎静脈、腎静脈下の下大静脈をクランプ、同時に肝門部でプリングルクランプを行い体外循環を開始した。右房切開を行い右房内の腫瘍を下大静脈に返納して胸腔の下大静脈にクランプをかける操作を行っていたところ、突然心電図でSTの上昇を認めた。TEEにて左心系を観察したところ左室内に大量に気泡が認められ、冠動脈への気泡流入が考えられた。ただちに頭低位とし、PAEを生じた原因をTEEにて詳細に観察したところ卵円孔開存がカラードプラーにて確認された。腫瘍塞栓を下大静脈内に返納し肝静脈流入部の中枢側でクランプをかけ右房を閉鎖した。以後、根治的右腎摘出術、下大静脈内腫瘍摘出術、人工血管にて下大静脈再建を行い、手術時間10時間、出血量約2000mlにて手術は無事終了した。患者は未覚醒のままICUに入室、数時間後に中枢神経系の異常を認めることなく覚醒した。
【まとめ】拍動下に右房切開する手術では、左房前負荷の低下により術前に診断されていない開存卵円孔より右左心内シャントが生じ、PAEを生じる可能性がある。このような手術では右房切開前に卵円孔開存の有無を精査し注意深い術中管理が必要である。