パネルディスカッション

セッション:パネルディスカッション(1)
セッション名:体外循環と炎症反応
日時:9月21日 10:05-11:35
場所:メインホール
演題順序:3番目

体外循環回路の工夫

慶應義塾大学病院 医用工学センター
○又吉 徹
1953年にGibbonらが初めて人工心肺を用いて開心術を行ってから、約50年が経過した。その後、数多くの臨床例の積み重ねと、人工肺、ポンプなどの改良により、人工心肺を用いた体外循環は十分に確立された方法となっている。しかし、静脈からの脱血・貯血、ポンプによる送血、熱交換器での温度調節、人工肺でのガス交換、動脈への送血、サクション回路などは、当初より大きな変化はない。特に、血液が異物となる人工心肺回路、人工肺、動脈フィルターなどと接触する点においては、昔も今もまったく変わりがない。血液が異物と接触し、"non-self"と認識することから始まる種々の炎症反応は、脳障害、臓器障害、止血機能障害などを引き起こす原因となっている。この炎症反応を抑制するために、我々が最初に行ったことは、接触面積を減らすことであった。小面積でも酸素加効率の高い人工肺の開発され、回路を短縮化し、血液と異物との接触を減らした。次に人工肺、回路など材料の表面にヘパリンなどでコーティングする技術が開発された。このことにより、人工心肺の生体適合性は向上した。特にPCPSでは、コーティング技術により種々の炎症反応は抑制され、成績は飛躍的に向上した。しかし、通常の開心術での人工心肺では期待したほどの結果は出ていない。通常の開心術での人工心肺と、PCPSの違いは何か。それは血液と空気との接触と、成分が変化した血液(サクション血)の回収である。PCPSは閉鎖型回路であるが、開心術での人工心肺では脱血回路から混入する気泡の除去や、循環血液量を調節するため、開放型回路となっている。このため、血液は空気と接触している。また、術野に溜まる血液は溶血、凝固能亢進、脂肪球などの成分が含まれた血液で、この血液を回収している。この2点により、コーティングされた材料を用いても、炎症反応を抑制できていない。人工心肺での炎症反応を抑制するには、血液と空気やサクション血との接触を抑えることである。そのためには、閉鎖型回路を用いることと、サクション血を直接回収しないことである。現在、通常の開心術での閉鎖型回路の使用、サクション血の処理方法について、検討を行っている。