藤田昌雄賞

セッション:藤田昌雄賞
セッション名:藤田昌雄賞候補発表
日時:9月21日 14:55-16:05
場所:メインホール
演題順序:5番目

冠動脈バイパス術患者における無症候性脳梗塞と動脈硬化の関係

熊本中央病院 麻酔科
○伊藤明日香、前川謙悟、本間恵子、馬場知子、後藤倶子
動脈硬化危険因子を有するCABG患者では加齢により無症候性脳梗塞(SCI:silent cerebral infarction)の頻度が増加し、SCIは術後脳障害に関与すると報告した。CABG患者におけるSCIと症候性脳梗塞(CI:cerebral Infarction)の原因は明らかではない。CABG患者で脳虚血性病変を評価し、SCIと動脈硬化との関係を検討した。
【方法】60歳以上のCABG患者(n=463)を対象とした。術前に脳虚血性病変を頭部MRIで、頭蓋内血管病変、頸動脈狭窄性病変を頭頚部MRAで、術中に上行大動脈硬化性病変をepiaorta echoで評価した。463症例を脳血管障害の既往(CVD)の有無とMRI所見での梗塞巣の有無で4群に分け、SCI群(CVDなし、梗塞巣あり;n=158)、正常(N)群(CVDなし、梗塞なし;n=225)、CI群(CVDあり、梗塞巣あり;n=66)、既往のみ群(CVDあり、梗塞巣なし;n=14)とした。年齢、性別、術前危険因子(HT、DM、HL、PVD、AAA、腎機能障害:術前Cr値≧1.9 mg/dl)、術後脳梗塞を評価し、SCI群とN群、SCI群とCI群で比較した。統計はt検定、χ2検定で行い、P<0.05を有意とした。SCIの予測因子をstepwise logistic regressionで検討した。
【結果】CI群はSCI群より男性、高血圧、頭蓋内血管病変、術後脳梗塞(9.1% vs 5.7%)が多く認められた(P<0.05)。SCI群はN群より高齢、PVD、AAA、腎機能障害、上行大動脈硬化性病変、頭蓋内血管病変、術後脳梗塞(5.7% vs 1.3%)が高率だった(P<0.05)。また、SCIの予測因子は、術前認知機能低下(OR, 2.766; P=0.011)、腎機能障害(OR, 2.450; P=0.012)、頭蓋内血管病変(OR, 1.620; P=0.073)、年齢(OR, 1.412; P=0.057)、上行大動脈硬化性病変(OR, 1.313; P=0.056)であった。
【考察】TEEによる弓部大動脈動脈硬化性病変は原因不明の脳梗塞の約30%に認められ、脳虚血性病変の危険因子の一つと報告されている。また大動脈硬化性病変は全身性塞栓の危険因子である。本研究ではSCIにPVD、AAA、腎機能障害及び上行大動脈硬化性病変が関与しており、術後脳梗塞が高率だった。大動脈硬化性病変は動脈硬化進展状態を示しているのか、もしくは微小塞栓のoriginとなりSCIや腎機能障害を生じているのか今後検討が必要である。
【結語】CABG患者のSCIはCVDの症状は認められないが動脈硬化は全身性に強く進展しており、術後脳梗塞の発生も高率であることを考慮して麻酔管理を行うことが重要である。