一般演題

セッション:ポスター 11
セッション名:経食道心エコー
日時:9月22日 15:40-16:40
場所:405会議室
演題順序:5番目

肝移植後の下大静脈ステントの逸脱により三尖弁逆流を認めた症例

東京女子医科大学 麻酔科学教室
○比企美加、長沢千奈美、横川すみれ、野村 実、尾崎 眞
症例)60歳、男性
現病歴)‘85年慢性肝炎と診断された。‘01年3月他院にて生体部分肝移植術を施行された。‘01年5月移植肝の腫大に伴う下大静脈の圧迫を認め、ステントを留置された。その後、経過観察を行っていたが、‘02年2月より呼吸困難、浮腫、黄疸を認め入院となった。移植肝の拒絶反応を疑い、治療を行ったが肝機能の改善はみられなかった。経食道心エコーを施行した結果、ステントの右心房内突出が認められた。また、一部破損したステントによる三尖弁逆流も認められた。このため、肝機能低下の原因は三尖弁逆流による肝静脈圧の上昇によるものと考えられた。Interventionalにステントを摘出することは困難なため、精査、加療目的に本院に転院となった。
麻酔経過)プロポフォール、フェンタニール、ベクロニウムにて全身麻酔管理を行った。麻酔導入後、経食道心エコーにて観察した結果、右心房内のステントの逸脱、及び中等度の三尖弁逆流が認められた。また、一部破損したステントによるものと思われる心房中隔穿孔も認められた。肺動脈圧は24/16 mmHgで肺高血圧は見られなかった。人工心肺開始前にハイドロコルチゾン0.1gを投与した。人工心肺開始後、三尖弁置換術、心房中隔穿孔閉鎖術が施行された。ドパミンを使用し、人工心肺離脱は容易であった。
考察)本症例の問題点として、麻酔維持薬の選択および長期に渡り免疫抑制剤の長期投与による人工心肺使用時の免疫抑制剤の血中濃度の維持の不安定なことがあげられる。挿管後の経食道心エコーでは三尖弁逆流による肺高血圧は認められなかったが、下大静脈ステントの先端が挫滅して心房中隔や三尖弁に嵌頓していた。したがって、弁形成術の予定を弁置換術へと変更した。また、破損した下大静脈ステントは先端部分のみを鈍的に切除して残りは留置したままとした。また、本例の肝機能低下の原因として移植肝の拒絶反応は否定できず、また出血傾向もあったため人工心肺の離脱困難が予測されたが、離脱はスムーズであった。弁置換術後も肝機能の充分な回復は認められず現在加療中である。
まとめ)肝移植後の下大静脈ステント留置症例に対する三尖弁置換術を経験した。肝機能の維持、免疫抑制剤の使用方法に苦慮したが、術式の決定に経食道心エコーが有用であった。