一般演題

セッション:ポスター 2
セッション名:体外循環
日時:9月21日 16:10-17:10
場所:404会議室
演題順序:4番目

開心術における腹腔内臓器低酸素化と肝類洞内皮細胞障害

埼玉県立循環器呼吸器病センター 麻酔科
○岡野暢宏、三好壮太郎、大和田良一、守田敏洋
開心術後の肝障害は、頻度は少ないものの一度発症すると重篤な合併症を引き起こす。我々はすでに、肝類洞内皮細胞機能の良い指標である血清ヒアルロン酸(HA)濃度が常温体外循環(ECC)中上昇し、一般の肝機能検査が正常でも肝類洞内皮細胞障害が起きている可能性があることを報告した。肝類洞内皮細胞は肝細胞に比べて低酸素やエンドトキシンなど様々なストレスに感受性が高く傷害を受けやすい上、その遷延化は肝細胞障害を引き起こすとされている。ECC中腹腔内臓器では酸素需給バランスが悪化していることから、腹腔内臓器低酸素化が肝類洞内皮細胞障害の原因であると考え、肝血流量、肝静脈血酸素飽和度(ShvO2)および血清HA濃度を測定することにより、それらの関係について検討した。
【方法】常温体外循環下に開心術を予定され、術前に肝機能障害のない15例を対象とした。麻酔導入後に肺動脈カテーテルと肝静脈カテーテルを挿入した。麻酔はプロポフォール4mg/kg/hとフェンタニル20μg/kgで維持した。麻酔導入後、ECC開始10分後、60分後、大動脈遮断解除時、ECC終了10分後、60分後にそれぞれ、循環動態、動脈血、混合静脈血および肝静脈血液ガス、血清HA濃度を測定した。肝血流量は麻酔導入後、ECC中、ECC後にインドシアニングリーン持続静注法により測定した。測定値より、全身および腹腔内臓器酸素需給バランスとHA除去能を算出した。
【結果】 ECC中、腹腔内臓器酸素消費量および摂取率が増加したため、ShvO2は有意に低下した。動脈および肝静脈血中HA濃度はECC前に比して有意に増加した。ECC中の肝血流量とHA除去率に負の相関を認めた(P=0.001)。
【考察】 ECC中、血清HA濃度は上昇し、しかも除去率が肝血流量に依存するようになった。これは肝類洞内皮細胞障害の証拠である。しかし、腹腔内臓器酸素化とHA除去能の間に直接の相関関係は見いだせず、肝類洞内皮細胞障害にはその他の要因が大きく関与していることが示唆された。
【結語】体外循環中は肝類洞内皮細胞障害が起こるが、腹腔内臓器低酸素化との直接の因果関係は認められなかった。