一般演題

セッション:ポスター 13
セッション名:開心術
日時:9月22日 15:40-16:40
場所:407会議室
演題順序:6番目

心臓再手術術中に生じた脳虚血に対し低体温とフリーラジカルスカベンジャーが有用であった1症例

熊本中央病院 麻酔科
○前川謙悟、伊藤明日香、本間恵子、馬場知子、後藤倶子、岡本 実、腰地孝昭
エダラボンはフリーラジカル消去作用により脳虚血・再灌流後の脳浮腫抑制、神経細胞保護作用、梗塞体積抑制作用を有し、さらに血液凝固、血小板凝集、線維素溶解や出血時間などに影響を及ぼさないことから、術中に使用できる脳保護剤である。今回、心臓再手術術中に突然の心室細動 (Vf)により脳虚血が生じ、低体温とエダラボンの使用により、術後神経学的障害をきたさなかった症例を経験した。
【症例】65歳男性。既往に9年前にCABG、4枝再建 (LITA-LAD, GEA-4PL, Ao-SVG-RCA#3, Ao-SVG-HL)、3年前に脳梗塞。今回、僧帽弁閉鎖不全症の診断で、僧帽弁置換術が予定された。術前の頭部MRIで左後頭葉に広範な陳旧性脳梗塞、MRAで右内頚動脈起始部に約90%の狭窄があり、長谷川式知能スケール (HDS) は25点であった。麻酔はNLA変法で行い、術中はBIS、両側脳内酸素飽和度 (rSO2) をモニタした。胸骨切開後、心膜癒着剥離時に突然 Vfが出現した。電気的除細動 (DC) を計5回施行したが心拍再開せず、心マッサージを行うも癒着とグラフトが存在するため十分には施行できなかった。その間血圧は20〜38mmHgであった。直ちに上行大動脈送血、右房脱血にて人工心肺に移行し、頭部冷却、チアミラール投与を行った。Vfの間BIS値は0を示し、rSO2値は右側で60→27、左側で55→17と低下した。人工心肺移行後、DC 1回にて心拍再開し、エダラボン30mgの投与を行った。Vfから人工心肺移行後までの時間は8分であり、BIS値およびrSO2値は人工心肺開始とともにVf前の値に急速に回復した。体温(鼓膜温)はVf発症前で36℃であり、34℃までの冷却に要した時間は18分であった。大動脈遮断後は28℃の低体温に維持し、復温は緩徐に行った。ICU入室後約2時間後に覚醒し、術翌日のHDSは25点で神経学的障害はなく、diffusion MRIにて急性増悪を含む新たな虚血性病変は認めなかった。
【考察】陳旧性脳梗塞と右内頚動脈狭窄合併例で、脳虚血後の脳障害が危惧されたが、低体温療法や緩徐な復温とエダラボンを併用することで脳障害を回避できた。しかし、癒着やグラフトの存在から、出血や不整脈発生時には直ちに体外循環に移行できる状態が重要であり、外科医との連携が必須である。
【結語】出血・凝固に影響を及ぼさないエダラボンは心臓手術術中にも使用でき、脳浮腫軽減、神経脱落症状改善が期待できる。