パネルディスカッション

セッション:パネルディスカッション(2)
セッション名:TOFの麻酔管理
日時:9月21日 13:20-14:50
場所:メインホール
演題順序:3番目

ファロー四徴症根治術の術中評価におけるTEEの役割

新潟大学医学部麻酔学教室
○黒川 智
ファロー四徴症(TOF)に対する心内修復術は、本邦では年間約500例に施行され、その手術死亡率は2%程度と報告されている。これは心房中隔欠損閉鎖術の0.3%、心室中隔欠損(VSD)閉鎖術の0.8%に比較すると高いが、他の複雑心奇形修復術より低く、比較的安全な心臓手術と考えられる。しかし、右心不全や肺動脈狭窄(PS)遺残などにより術後管理に難渋することや再手術を要する場合もあり、人工心肺(CPB)離脱後の手術評価が重要であり、経食道心エコー(TEE)が有用な診断ツールとなりうる。
 1997年8月〜2002年3月に新潟大学医学部附属病院においてTOF根治術が施行され、術中TEEにより評価された症例は19例であった。CPB離脱後に右室流出路から肺動脈に乱流を認めた症例は13例(68%)に及んだ。直接圧測定による右室圧/大動脈圧比が0.8以上をPS再解除の基準とし、このうち3例に実際に再解除が施行された。演者らの経験では、TEEでの圧較差評価と直接圧測定には解離を示す場合が少なくなく、重症度評価には不向きであったが、部位やメカニズムの特定、狭窄がダイナミックなものであるかどうかの判定には有用と思われた。CPB離脱後の乱流発生にはカテコラミン、心筋浮腫に伴う内腔狭小化やコンプライアンス低下、パッチ自体が影響すると考えられ、多くの症例で術後右室圧/体血圧比は低下する。これらの要因に影響されることなく、術後、右室圧/体血圧比が低下しにくい症例を術中に同定できるか否かは興味深い課題であり、今後さらに検討すべきあると考えている。PS以外には軽度のVSDリークを2例に、右心不全所見を3例に認めた。このうち右心不全の1症例は右冠動脈支配領域に一致し高度な壁運動異常を認め、この所見から右室流出路パッチ縫着による右冠動脈のひきつれが判明し、直ちにパッチ再縫着が施行された。再修復のためにCPBに復帰した症例は4例(21%)に及び、他の小児開心術と比較してきわめて高率であり、TOF根治術においてTEEの果たすべき役割の大きさが伺える。
 このパネルディスカッションでは、Rastelli手術も含め数例のTOF症例を呈示しながら術中TEE評価の実際を紹介し、TOF症例に対する術中評価におけるTEEの有用性及び欠点について述べたい。