一般演題

セッション:ポスター 15
セッション名:止血・凝固
日時:9月22日 15:40-16:40
場所:504会議室
演題順序:5番目

抗リン脂質抗体症候群患者の僧帽弁置換術の麻酔経験

広島大学 医学部附属病院 麻酔科蘇生科
○安氏正和、楠 真二、黒田真彦、河本昌志、弓削孟文
【はじめに】抗リン脂質抗体症候群 (APS)はリン脂質結合性蛋白に対する自己抗体の出現を特徴とする難治性自己免疫疾患であり,多彩な動・静脈血栓症を生じうる.APS患者では自己抗体がリン脂質依存性の凝固能検査過程を阻害するため,みかけ上は凝固延長を呈する.したがってAPS患者に対する人工心肺手術では,Activated Clotting Time(ACT)の値が通常より延長し,ヘパリンによる抗凝固の評価が困難となる可能性がある.今回APS患者の僧帽弁置換術に際し,術前に至適ヘパリン血中濃度におけるACT値を算出して術中の抗凝固の指標とした.
【症例】29歳女性.19歳時よりAPSと診断され抗凝固療法が開始されていたが,習慣流産,下肢深部静脈血栓症,無症候性脳梗塞など全身性多発血栓症を繰り返していた.下腿浮腫の精査中に僧帽弁逆流(3度)を認めたため僧帽弁置換術が予定された.
【術中管理と経過】術前に患者の動脈血を採取し,ヘパリンを添加して対数希釈系列(ヘパリン濃度0〜4単位/ml)を作成した.対応するACTを測定して検量線を作成し,目標ヘパリン血中濃度である3単位/mlに相当するACTを590秒と算出した.プロポフォール持続静注,フェンタニル,パンクロニウムにより麻酔を維持し,ヘパリンは通常量200単位/kgを静注した.ACTは人工心肺開始時には目標値を超え,90分後には516秒まで低下したが離脱直前であったためヘパリンは追加投与しなかった.手術は人工弁置換術を行い,人工心肺離脱後プロタミンの等量補正によりACTは基準値に復帰した.併用した凝固能検査(ソノクロット,トロンボエラストグラフィ,aPTT)においても人工心肺中の抗凝固に異常を認めなかった.周術期に血栓症など凝固能亢進に伴う症状は認めず術後第22病日退院となった.
【考察および結論】APSでは通常の凝固能検査による抗凝固療法の評価が困難で,特に人工心肺を使用する手術ではその管理に難渋する.人工弁置換術後に血栓弁を生じたとの報告もあり慎重な抗凝固のコントロールが必要である.今回,われわれは術前に患者血液を用いて目標とするACTを設定し安全に管理をすることができた.APS患者の人工心肺手術に際し,術前に患者血液を用いて目標ACTを設定することは有用であることが示唆された.