一般演題

セッション:ポスター 7
セッション名:CABG
日時:9月21日 16:10-17:10
場所:504会議室
演題順序:5番目

虚血性心疾患に対する心筋への骨髄細胞移植術の麻酔経験

関西医科大学 麻酔科
○木本倫代、佐登宣仁、山崎悦子、池田栄浩、中尾慎一、新宮 興
虚血性心疾患などの動脈閉塞性疾患に対して遺伝子・遺伝子組み換え蛋白や血管前駆細胞を用いた治療的血管新生が試みられている。経皮的冠動脈形成術(PTCA)および冠動脈バイパス術(CABG)後に再発した狭心症患者に対する心筋への自家骨髄細胞移植の麻酔管理を経験したので報告する。
[症例]64歳、男性。虚血性心疾患に対してPTCA3回、CABG2回を施行されたが、グラフトの狭窄によりCCS分類IV度の狭心症を示していた。胸痛の原因として推測された左回旋枝領域への自家骨髄細胞移植が予定された。
[経過]全身麻酔導入後、腹臥位にて骨髄採取を行った。仰臥位にて気管チューブをダブルルーメンチューブに入れ替えた後右側臥位とし、左開胸・分離肺換気下に心尖部および後側壁を露出した。スタビライザーにて注入部位を固定し細胞注入が行われた。細胞注入時に一過性に心室性期外収縮を認めたが、特に治療を要せず洞調律に回復した。以後、著変なく経過し人工呼吸下に退室した。手術時間は骨髄細胞採取術35分、開胸下骨髄細胞注入術1時間12分であり、麻酔時間は6時間50分であった。
[考察]術中管理上の問題点として、1)難治性狭心症であり容易に術中心筋虚血を生じ得ること、2)骨髄採取に伴う循環血液量の変化と血圧低下、3)心筋への細胞注入時の不整脈・心筋虚血の発生の3点を予想した。心筋虚血の予防については一般的な虚血性心疾患患者の麻酔管理に準じ循環動態の管理と冠血管拡張薬の予防的投与を行った。モニターとして、心電図、観血的血圧、肺動脈カテーテル、経食道心エコーを用いた。骨髄採取に伴う血圧低下に対しては膠質液輸液及びフェニレフリンの投与にて対処した。心室性不整脈の発生に対しては、癒着により体内式除細動パッドの使用が困難である可能性を考慮して体外式除細動パッドを装着したが、幸い本症例では除細動を必要とする不整脈への移行は認めなかった。細胞注入後に局所反応・浮腫により壁運動の低下を生じうると考えていたが、手術中には経食道心エコー上明らかな壁運動の変化は認めなかった。このような虚血性心疾患に対する治療的血管新生においては治療から血管新生に一定期間を要するため、CABGと異なり手術終了時に冠血流の改善は期待できないことに注意が必要である。虚血性心疾患患者の非心臓手術時の周術期管理に準じて手術終了後や麻酔覚醒時の心筋虚血の予防に留意する必要があると思われた。