一般演題

セッション:ポスター 14
セッション名:合併症
日時:9月22日 15:40-16:40
場所:503会議室
演題順序:5番目

冠動脈バイパス術後に頚髄損傷を来たした1例

帝京大学 医学部 麻酔科1
上尾中央総合病院 麻酔科2
○坂本希世子1、新見能成1、森田茂穂1、藤岡 丞2、中村 到2、平田一雄2
心臓手術後の脊髄損傷は極めてまれな合併症である。今回、冠動脈バイパス術後に頚髄損傷をきたした1例を経験したので報告する。
【症例】63歳男性(175cm、67kg)。既往に糖尿病、腎不全、高血圧、一過性脳虚血発作を認め、7年前から人工透析を行っている。現在神経学的異常はなく、これまで頚椎の障害を疑わせる症状はなかった。7年前に健康診断で大動脈弁狭窄症を指摘され、以後経過観察されてきた。最近ゴルフ中や透析中に胸痛を覚えるようになり、冠動脈造影で#7;90%、#1,2;90%の狭窄が認められた。大動脈弁狭窄の重症度は中等度以下であることより、両内胸動脈を用いた冠動脈バイパス術が予定された。麻酔の導入はミダゾラム、プロポフォール、ケタミン、フェンタニル、ベクロニウム、維持はプロポフォールの持続投与と、ミダゾラム、フェンタニル(総量0.8mg)の適宜追加で行った。導入後、右内頚静脈から肺動脈カテーテルを挿入した。挿管、内頚静脈穿刺は共にスムーズであった。手術は肩の下にスポンジを入れた軽度頚部伸展位で行われた。人工心肺は灌流量2.2-2.4l/min/m2、灌流圧50-80mmHg、体温35℃で維持した。手術時間355分、人工心肺時間165分、大動脈遮断時間105分、出血量550gで無事手術を終了したが、術後出血が持続していたことより、手術翌朝まで鎮静が続けられた。覚醒直後より患者は、両手が握れないことと下半身の感覚がないことを訴えた。神経学的所見からC6レベル、Frankel Bの頚損と診断され、頚部の安静とスカベンジャー剤の投与が開始された。MRIではC5/6の軽度の椎間板ヘルニア、C6レベルの淡い低吸収域が見られた。術後25日現在、知覚はほぼ正常となり、また一部の筋力は改善したものの、依然不全運動麻痺(Frankel C)が残存している。
【考察とまとめ】冠動脈バイパス術後の頚髄損傷は、調べた限りでははじめての報告である。原因として梗塞、出血、機械的損傷などが考えられ、大動脈弁狭窄、糖尿病、低灌流、常温体外循環、長時間の頚部伸展による機械的圧迫などの関与が疑われるが、詳細は不明である。